TVアニメ作品を見てきた中でも特に印象に残るのが「五等分の花嫁」だ。成績優秀な主人公の風太郎が落第寸前の五つ子(一花、二乃、三玖、四葉、五月)の家庭教師をするラブコメとなっている。今回はTV版(1期と2期それぞれ12話)から引き続いて物語の完結編となる劇場版を見てきた。劇場版は恋愛の結末とそれぞれの成長が描かれている。
劇場版では高校3年生2学期におこなわれる学園祭の3日間が主に描かれる。学園祭では風太郎と四葉がクラスを引っ張って出し物を決めていく。四葉も相変わらず献身的に貢献したり、たこ焼き屋とパンケーキ屋で男女真っ二つになるクラスを三玖が解決すべく奮闘するなどの活躍を見せていく。風太郎の幼なじみ、姉妹の実父の登場、マルオ(継父)との関係など盛りだくさんの3日間が描かれる。
後夜祭でいよいよ告白となり、これまで描かれていた恋愛模様から風太郎の決断が描かれる。姉妹がそれぞれ別々の教室で待っていて意中の相手の教室に入るシーンはドラマチックな展開となっている。しかし本作では五つ子みんなが魅力的に描かれているので、選ばれなかった姉妹の描写では胸が痛んだ。四葉の姉妹に対する罪悪感から告白を受け入れられないことについて二乃や三玖とも一波乱ありつつも姉妹愛が感じられる場面だった。その後デートで即プロポーズと即OKの展開も面白い。結婚式当日に五つ子ゲームということで姉妹が同じ格好で登場したが、風太郎は全員を言い当てる。そしてこれまでの思い出を語るシーンもあり胸が熱くなった。五つ子でありながら、それぞれ別々の道に進むという完結にふさわしい演出に、物語が終わってしまう寂しさもあるが未来に向けての希望も見い出せた。
以下五つ子姉妹を個別に見ていく。
一花はすでに女優としてドラマやCMで活躍し一足先に自分の夢を実現させている。「いつまで五つ子なんだろう」とうセリフが印象的だった。高校までは姉妹一緒だったが、これからは別々の道を歩んでいく寂しさが感じられた。風太郎が当初誰も選ばないと考えていたことから、一花が風太郎の決断を迫るという後押しをする。自分が選ばれるかというよりも、振り回した過去から恋愛の決着を図ろうとする一花の心の変化が感じられた。全話を通して姉妹全体を包み込むような「長女」らしさが見られたと思う。
二乃については継父のマルオとの関係性が一番に描かれていた。学園祭の招待状を出したけど来てくれず(実はこっそり来ていたが)、風太郎とともに乗り込んで行き、母親との思い出のパンケーキを食べてもらったりと過去の思い出とのリンクもあった。実父との対比も交えつつ、継父のマルオがTVシリーズよりも姉妹の「父親」であることが強調されて描かれていたと思う。告白後の四葉の煮え切らない態度に喝を入れるなど、姉妹愛が強いゆえの厳しさのような言動が感じられ、一花とは違った「姉」らしさが見られたと思う。
三玖については消極的だった性格から積極的に行動する成長という面が強く描かれていた。学園祭の出し物で二分したクラスをまとめようと奮闘したり、風太郎をデートに誘ったり、料理の勉強をするという決断をするなど行動的な描写が目立った。TVシリーズでの風太郎をめぐって姉妹をライバル視したあたりから変わっていったと思うが、全話を通して「成長」という面が強く描かれていたと思う。
五月は紆余曲折ありながらも教師になるという夢を選択し決断した。実父の言葉によって教師の夢が亡き母親の背中を追いかけていたことなのかを悩む。しかし風太郎との会話もあり母親の背中を追いかけてるのではなく自分の意思で教師になるという確信に変わっていった。今回他の姉妹はみんなキスシーンがあり五月だけはなかったと思ったが、パンフによるとネズミが出てきたときの「チュー」という鳴き声がそれだったらしい。
最後は四葉について。風太郎と昔出会ったのは四葉だったことが判明するなど今まで語られなかった四葉の過去が明らかにされる。幼い頃の風太郎とたくさん稼ぐために勉強をがんばるという約束をしたり、リボンは他の姉妹との違いを出すためだったりが判明。姉妹の中で「特別」になることを目指していたが成績が振るわず落第してしまい、他の姉妹も四葉を追って転校させてしまったという罪悪感を感じていた。その負い目から他人に協力的な行動になったり、風太郎からの告白も受け入れられずにいた。二乃や三玖の後押しもあってか、風太郎の突然のプロポーズに即決してしまうのは面白い展開だった。結婚式後にアイデンティティだったリボンを捨てるのは象徴的で、姉妹一人一人違うんだということへの理解がそうさせている。亡き母親からの言葉をそこで理解してラストを迎えるのはジーンとさせられた。
TVシリーズの第一期(2019年)、第二期(2021年)と見続けて完結となる劇場版を見られたのは嬉しいと同時に終わってしまう寂さもあった。しかし136分の大作となって学園祭と告白だけでなく、結婚式まで描かれ完結編として十分に見応えのある作品となった。
ラブコメという枠に収まらない、姉妹愛やそれぞれの夢や成長が描かれた良い作品だった。
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